« 無い袖はやっぱり振れない | トップページ | 教わった物をアレンジするのは難しい »

愛する新幹線こだま号

10月8日夕方。
東海道新幹線に乗っている。
故郷、沼津へ行くため。
帰省は専ら新幹線。
三島まで新幹線。
そこから東海道線で一駅。
一時間程で着く。早いもんだ。

僕はこだまが大好きだ。
3、15号車が喫煙車という
愛煙家には鉄壁の二段構え。
のぞみは三島に停まらないし
ひかりも三島に冷たい。

東京駅で待っていると
悠然とホームに滑り込む
僕らのこだま。
早く乗りたい気持ちを抑え
車両清掃のおばさまを見る。
この手際の素晴らしさ。
特急料金の半分は
これに対する拝観料だと
言われても何の文句も無い。

乗客が出払うと素早く
隠密の様に乗り込む
桃色の特殊部隊。
華奢な体で腰を入れ
勢いよく座席を半回転。
白いカバーを毟るように剥がす。
もう一人は新しいカバーを
座席に載せる。
静かなること林の如く、
清掃すること火の如く。
灰皿の中身を空け、
箒で座席を掃く。
片側ずつ、二人一組の
見事な連携。
仕上げにカバーをきちんと掛け、
軽くポンと叩く。
我が子を送り出す母親の様。
息子達は綺麗に磨き上げられ、
背筋もピンと伸びている。
ハンカチもティッシュも
弁当も持った。
いってきます、という
声が聞こえる。

ご乗車の準備ができました、
というアナウンスと共に
乗り込む乗客。
倒される座席。
さっきまで直立不動の
気をつけ姿勢だったのに
踏ん反り返る息子達。
更には煙草を押し付けられる。
悪に染まる少年。
汚れちまった悲しみに。
きっと終着駅の名古屋で
母ちゃん達が待ってる。
しょうがないねと
言いながらまた元の
いい子にして貰えるんだろう。
降りる時は座席を戻す。
それくらいしか出来ないが
せめて綺麗に使いたい。

実家から帰る時、
かなりの高確率で
桃中軒(地元の弁当屋)の
鯛飯を買う。
子供の頃食べた味を
思い出したくて。
ノスタルジーには勝てない。
味付きのご飯の上に
ぎっしりと鯛そぼろ。
箸じゃ食べにくいので
スプーンが付いてる。
車内で食べるんだけど
必ずこぼす。ボロボロこぼす。
食べ方まで往時を
再現してる訳じゃない。
なるべく拾うけど
中には失踪するそぼろも居る。
時効まで逃げ切られる。

鯛飯は食べたい。
でも汚したくない。
煙草は吸いたい。
でも灰を落として汚したくない。

結局誘惑に負け、
灰とそぼろに塗れた
ピンクチャイルドを
母親の前に差し出す。

東京駅に着くと
清掃のおばさま方は
「有難うございました」と
深々とお辞儀で迎えてくれる。
「息子がお世話になりました」
といった佇まい。
ごめんなさい。
息子さんを酷い目に合わせました。

僕が出た後、きっと
「またあの子と一緒だったの?
付き合うのやめなさいって
言ったでしょ!」
って説教されてるんだろう。

こだまは寛ぎと罪悪感、
そして母の偉大さを感じる
素敵な新幹線である。
そしてまた僕は
煙草の灰をポロリと落とす。
おばさんごめんなさい。

|

« 無い袖はやっぱり振れない | トップページ | 教わった物をアレンジするのは難しい »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

生まれてきてくれて、ありがとう。


32歳になった橘也さんへ

投稿: | 2010年10月 8日 (金) 19時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1324545/37139212

この記事へのトラックバック一覧です: 愛する新幹線こだま号:

« 無い袖はやっぱり振れない | トップページ | 教わった物をアレンジするのは難しい »